原点のこと
この春、本研究室の大学院生ががすべて修了し、研究室の学生は学部生だけとなった。博士および修士課程の大学院生がいない年となるのは、研究室を開いて14年となるが初めてのことじゃないだろうか。もっとも、本学に赴任して2年間は、大学院生がいなかったのだが・・・
本学に赴任した年、すなわち2007年は10月に初めての学生2名(3年生)を研究に迎えた。研究室1期生の、大崎 翔君(現岩手県庁農林水産部畜産課技師)と藤井貴志君(現北海道立総合研究機構畜産試験場研究員)である。この時の顛末は、「HPのこと」に詳しいのでそっちをチェケラ!
で、翌2008年、大崎君と藤井君は進級して4年生になったが、もちろん彼らは飛び級したわけではないので、研究室に大学院生はゼロ。そしてついに、2009年に大崎君と藤井君がそろって修士課程に進み、ようやく研究室に大学院生が誕生した。
それから、この春まで12年間、もちろん増減はあったが研究室には大学院生が必ず所属し、研究活動の主軸となってがんばってくれた。実験をガンガン遂行する主力は大学院生だったし、研究室に入って間もない3年生や、まだまだ独り立ちがオボツカナイ4年生の実験指導や研究室の細々とした運営に大学院生は欠かせない存在だった。
その大学院生がこの春からゼロという、いわば「緊急事態(?)」に陥いることとなり、僕自身ちょっと焦ったし、「大丈夫かいな?」と正直少し不安だった。先輩が一斉に卒業して、残される現4年生たちも僕以上に不安だったと思うけど、まさか、「先生も少し不安です」と僕が言うわけにはいかず、彼らにはいつも明るくこう言っていた(いる)。
「大丈夫、研究室の始まりは、僕と2名の学部生だけやったんや。去年、先輩たちが君たちに教えてくれた全ての実験操作は、もともと僕が最初に教えたんやで!つまり、春から『原点』にもどるだけなんや!」
と。そして4月、かなりの実験手技は先輩たちが卒業前に仕込んでくれていたが、実際に卒論実験が本格した新4年生たちに、ありとあらゆる実験手技を自ら教える日々が始まった。もちろん、これまでも大学院生たちが新たな実験を始める時には、僕も一緒に実験をしたし、「これ!」というキーポイントの実験は必ず学生を直に指導していた。しかし、一から十まで、すべての実験を学生と一緒にやるのは、まさに12年ぶりのこと。
でも、僕と学部生だけの研究室も始まってみると、まったく(おそらく)ノープロブレム。むしろ、色々な実験操作をダイレクトに学部生に教えることで、これまで先輩が教えていた手技の一部に誤りがあったということも発見され、それらの誤りを訂正することができた。どうやら、先輩から後輩に代々口頭伝授されて行く中で、伝言ゲームのようにいつしか間違った内容が伝授・固定されてきたらしい。もちろん代々の先輩たちの名誉にかけて言うが、ほとんどの実験手技は僕が教えた通り正しく先輩から後輩に受け継がれており、むしろ創意工夫が加わって改善されているものも多いのだ。
ということで、澤井研究室2021は『原点回帰』で実に楽しくやっている。でも正直言うとね、研究室的には、やっぱ大学院生がいた方が、先輩後輩のよい雰囲気やよい緊張感があるし、「先生はいつもこういうけど、ほんとはこうでも大丈夫だから!」的なTipsもあったほうが楽しいと思う。さらに、実験に関することは僕がフォローできても、単位取得のこと、就活のこと、院試のこと、それら実験以外のことも研究室活動には大事なファクターで、やっぱ、そういう事柄のアドバイスは先輩から聞く方がいいのだと思う。特に、恋の悩みや交友関係、バイトの悩みなんか、「間違っても先生に相談できるかっ?!」でしょ?
先週、本学の来年度入学の大学院修士課程の入試が行われた。澤井研究室からもM君が受験し、現在、合否発表待ちである。結果はまだでてないけど、もし無事に合格していたら、来年度はまた、大学院生が学部生を引っ張っていってくれる研究室になるだろう。研究室の1期生である大崎くんと藤井くんが2人とも修士に進み学部生をグイグイ引っ張っていてくれて、今の研究室の礎を強固にしてくれたように。それもまた澤井研究室の『原点』である。
2021年8月23日
澤井 健
卒業から約10年後(2018年)の『原点』・大崎君(左)と藤井君(右)